「ゴリラのモノマネをして」と言われたら、ほとんどの人が胸を叩く動作をするだろう。
それほどまでにゴリラ=胸を叩くというイメージは、私たち人間の脳みそにこびりついている。
ではこのゴリラが胸を叩く行為=ドラミングには、一体どんな意味があるのだろうか?
ゴリラの発見とドラミング
ゴリラ発見時、ゴリラと胸を手のひらで叩くいわゆる「ドラミング」を初めて見た人間は、驚いて発砲しゴリラを殺してしまった。
そしてドラミングするゴリラの暴力的・好戦的に見える姿はゴリラ発見者に深く印象付けられ、さらにその後発見者が本土に戻った後に書いた著書によって、人間のゴリラに対する印象は好戦的で危険な動物と刷り込まれてしまったのである。
またその著書には「ゴリラは森から現れて人間の女をさらっていく」と書かれているようだ。
現実では決してあり得ないこの描写からも、発見者がいかにゴリラを恐れていたかがわかるだろう。
ゴリラとキング・コング
ちなみに、1933年に公開された一番最初のゴリラ映画「キングコング」は、そんな暴力的・好戦的な印象のままゴリラを描いた映画である。
映画監督のクーパーはこの映画でゴリラを悪魔の怪物として描こうとし、作中でもゴリラは残虐で気味の悪い存在であるかのように描写されたようだ。
この映画「キングコング」は今までに何度もリメイクされている。
私はゴリラに関して誤ったイメージを持ったまま作られた初代キングコングを観たいとは思わないが、2005年のリメイク版「キング・コング」はおすすめだ。
私がゴリラを好きになった理由の一つとして挙げられる映画である。
人間に住処を荒らされ、人間の世界に連れ去られた挙句人間に殺されてしまうゴリラ。何とも言えない気持ちになって涙なしには見れない映画である。
観たことがない方は一度観てみて欲しい。
「あんなにデカいキング・コングをどうやって船に運んだんだ…?」などツッコミどころも満載だが、血を流しながらも大切なものを守るキングコングの姿に何度も泣いてしまった。
時を話を戻そう。
そんなワケで、胸を叩くドラミングという行為によって野蛮なイメージを持たれてしまったゴリラ。
しかしドラミングは、本来相手を脅したり「これから攻撃するよ」と宣言するためのものではない。
ゴリラが胸を叩いてドラミングをする理由
ゴリラが胸を叩きドラミングをするのは、戦いを避けるためである。
ドラミングによって大きな音を立て、自分の存在、そして自分の気持ちを伝えることによって、実際に牙を交える事なく戦いを終わらせようと、いやそもそも戦いが起こらないようにしているのだ。
巨体のゴリラ同士が戦うとなると当然どちらか、もしくはどちらも大きなケガを負うことになるだろう。
そんな戦いを無用なものとして、なるべく避けるためにゴリラは胸を叩くのである。
このドラミングは、他の群れに自分たちの存在を知らせるためにも使われる。
周りに自分の存在を知らせ、お互いに不用意に近づきすぎないようにしているのだ。戦いが起こらないように。
とはいえ、ゴリラのドラミングは戦いを避けるため以外にも、例えばメスに対しても行われることがある。
この場合はメスに自分の強さを示し、自分に興味を惹きつけるために行うとされている。
ちなみに、ドンキーコングなどキャラクター化されたゴリラは拳を使って力強く胸を叩く描写があるが、実際のドラミングの際は手のひらで胸を叩く。
その方が音が響きやすく、遠くまで広がるからだ。
ゴリラのドラミングはなぜ大きい音が出る?ドラミングの仕組み
私たち人間がいくら胸を強く叩いても、ゴリラのように大きな音は出ない。
ではなぜ、ゴリラたちはあのように大きな音を出すことができるのだろうか?その秘密はゴリラが持つ特殊な器官にある。
ゴリラは喉に共鳴袋と呼ばれる器官を持ち、それは子供から大人になるにつれてだんだんと成長していく。
息を吸い込んでこの共鳴袋を膨らまし胸を叩くことで、大きくてキレイな音を出すのだ。
オスだけでなくメスや子供もドラミングを行うことがあるが、共鳴袋が発達していないためあまり大きな音はならない。
メスゴリラや子供ゴリラもドラミングを行う
敵に遭遇したときや危険を察知したときにドラミングをするのはオスだが、メスや子供ゴリラもドラミングをすることがある。
子供ゴリラは、群れの仲間を遊びに誘う時によくドラミングの真似事をする。
また、子供ゴリラ同士が小高いところに交互に上ってドラミングを見せつけ合う「お山の大将ごっこ」という遊びをすることも分かっている。
大人であるオスゴリラの背中を見て育つ子供ゴリラは、ドラミングに憧れがあるのかもしれない。
ゴリラのドラミングには手順がある
そんなゴリラのドラミングにはちゃんとした手順がある。
- 身体や首を横に振りな口をすぼめてフーホーという高い音を出す(=フーティング)
- 小枝などを口に咥える
- 二足で立ち上がる
- 辺りにあるものを投げる
- 胸を叩く(ドラミング)
- 辺りにあるものを蹴る
- 突進する
- 辺りにある木や草を引きずる
- 地面をたたく
これがドラミングの一連の流れとされている。
もちろん毎回これをするワケではない。また最初のフーティングは成熟したシルバーバックのみが発するとされている。